万博閉幕後、夢洲(ゆめしま)はどう変わる?大阪・関西万博“跡地レポート”

大阪万博
2025年10月13日、大阪・関西万博が盛大に閉幕した。
184日間にわたり、世界158カ国・地域と9つの国際機関が集い、約2,820万人の来場者を迎えたこのイベントは、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、未来技術のショーケースとして輝いた。
会場となった大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)は、かつて「負の遺産」と呼ばれた埋め立て地から一転、国際的な注目を浴びた。
しかし、閉幕の鐘が鳴り響くと、約155ヘクタールの広大な会場は静寂に包まれる。パビリオンは次々と解体され、シンボルである世界最大級の木造建築「大屋根リング」も一部を残すのみだ。
夢洲はこれからどう変わっていくのだろうか?

夢洲の過去と万博のレガシー

夢洲の歴史は1977年に遡る。
大阪市が廃棄物や建設残土を活用して整備を始めたこの人工島(総面積約390ヘクタール)は、当初、6万人の住宅地として構想された。
バブル崩壊で計画は頓挫し、2008年の北京五輪誘致失敗で「負の遺産」の烙印を押された。
コンテナターミナルとして一部活用されたものの、広大な土地は眠り続け、行政の頭痛の種だった。
そんな夢洲に光を当てたのが、2025年万博の誘致だ。
2018年のBIE(国際博覧会事務局)総会で開催地に決定し、建設は2023年4月から本格化。
会場内には、空飛ぶクルマの実証実験や自動運転バス、AI翻訳システムが導入され、「Society 5.0」の実験場となった。
閉幕時の来場者数は当初予想の2,800万人を上回り、経済効果は約2兆2,000億円に達したと推計される(大阪府・市発表)。
しかし、万博は一過性。鍵は「レガシー」の継承だ。大屋根リングの約200m部分は保存され、3.3ヘクタールの公園「静けさの森」(当初2.3ヘクタールから拡張予定)として残る。
部材のリユースで維持費は約90億円と見込まれ、万博黒字分で賄う方針だ。
パビリオン跡地は更地化が進み、土壌のメタンガス対策(埋立地特有の問題)も完了間近。
Osaka Metro中央線の夢洲駅(2025年1月開業)周辺はすでに賑わいの兆しを見せ、シャトルバスやフェリー乗り場が活気づく。
万博で整備されたインフラ—5Gネットワーク、再生可能エネルギー設備、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)—は、跡地開発の基盤となる。

夢洲全体の開発構想:3期区域で描く未来都市

大阪府・市は2017年の「夢洲まちづくり構想」から、夢洲を「夢と創造に出会える未来都市」として位置づけている。
全体を3つの区域に分け、段階的に開発を進める。第1期区域(北側、約49ヘクタール)は、すでに工事が進む統合型リゾート(IR)
MGMリゾーツとオリックスが手がけるカジノ施設は、2030年秋開業予定で、MICE(会議・展示)施設、ホテル、ショッピングモールを備え、年間2,000万人の集客を見込む。
第3期区域(南側、約40ヘクタール)は長期滞在型リゾートとして、埋め立て後に住宅や高齢者施設を検討中だ。
焦点は第2期区域(中央部、約50ヘクタール)。ここが万博跡地で、国際観光拠点の核となる。
2024年夏から民間提案を募集し、2025年1月に大林組主導の「夢洲第2期区域開発基本構想検討会」と関電不動産開発主導のグループの2案を優秀案に選定。
府・市はこれを基に2月18日、「夢洲第2期区域マスタープラン Ver.1.0」を公表した。
2025年秋から事業者公募を開始し、2026年春に開発着手、2030年頃の完成を目指す。
マスタープランは、4つのゾーンに分かれる。
  1. ゲートウェイゾーン(入口エリア):夢洲駅周辺の約10ヘクタール。商業施設、広場、食文化体験スペースを配置し、観光客の玄関口に。24時間営業のナイトマーケットや大阪グルメストリートを想定。万博で実証された自動翻訳技術を活用した多言語対応で、国際色を強める。
  2. IR連携ゾーン(北東部):IRに隣接する約10ヘクタール。高級ホテル、国際会議場を整備し、IRとのシナジーを生む。提案案では、ラグジュアリーホテルが目玉で、年間1,000億円以上の経済波及効果を期待。財界からは「IR開業前に跡地開発を急げ」との声が上がる中、連携強化が鍵だ。
  3. グローバルエンターテイメント・レクリエーションゾーン(中央部):約20ヘクタールの核エリア。民間提案の目玉が詰まる。大林組案はF1誘致を視野にしたサーキット場とクルマテーマのアミューズメントパーク。関電案は世界最大級のウォーターパークと複合リゾート。大型アリーナ(収容1万人規模)も導入し、野外ライブやeスポーツイベントを開催。万博の「非日常空間」を継承し、「夢洲でしかできない体験」を創出する。
  4. ヘルスケア・イノベーションゾーン(南西部):大阪ヘルスケアパビリオン跡を活用した約10ヘクタール。先端医療施設や国際医療ハブを目指す。健診センターやバイオラボを置き、SDGsの「健康と福祉」を体現。万博で展示された再生医療技術を継続実装する。

これらのゾーンは、緑地率30%以上を確保し、持続可能性を重視。

再生エネ比率50%超の施設設計で、カーボンニュートラルを推進する。

交通インフラの進化:夢洲を「つなぐ」架け橋に

開発の成否はアクセスにかかっている。
万博でOsaka Metro中央線が延伸(コスモスクエア~夢洲、3.2km)し、所要時間は都心から15分に短縮。
JR桜島線(ゆめ咲線)の夢洲延伸や京阪中之島線の北ルートも検討中だ。
2025年6月には、夢洲北海岸ターミナルが開港し、関空・神戸空港直結のクルーズ船対応が可能に。
Yodogawa左岸線第2期の道路整備で、車アクセスも向上。
空飛ぶクルマの実証は、2030年商用化に向け継続される。
課題は費用負担。鉄道延伸の総額は数千億円規模で、財界から「民間投資を呼び込め」との指摘がある。
産経新聞の取材では、関西経済連合会幹部が「IRと跡地の相乗効果で、年間経済効果1兆円超を狙う」と語る。
一方、環境面ではメタンガス対策が完了したが、野生鳥類の生息地保護が今後の焦点だ。

課題と展望:夢洲が大阪を変える日

閉幕後の夢洲は、確かに変わる。
かつての荒涼とした島は、2030年までに「アジアのエンタメハブ」へ変貌を遂げるだろう。
IR開業と連動すれば、雇用15万人、GDP寄与1兆円超のインパクト(府市試算)。
しかし、財界の「待った」声が示すように、開発のスピードと多様性が問われる。
サーキットはモータースポーツファンに、ウォーターパークはファミリー層に訴求するが、提案の多角化が必要だ。
また、万博の「つながり」の精神を、インクルーシブな空間設計に反映させる。
2026年春の事業者選定を待つ夢洲は、静かに息を潜めている。
1年後、2年後、どんな景色を見せてくれるのだろうか。
大阪のベイエリアは、万博の炎を糧に、新たな輝きを放つはずだ。
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