1985年つくば万博:科学と未来が交差した歴史的一瞬

万博

日本の万博史において、1985年の「国際科学技術博覧会」(つくば万博)と2025年の「大阪・関西万博」は、科学技術と人類の未来をテーマに掲げた二つの大きな節目です。

それぞれの時代背景や目指したビジョンは異なりますが、どちらも日本が世界に示した技術力と希望の象徴でした。

この記事では、つくば万博の輝きを振り返りつつ、2025年の大阪・関西万博との比較を通じて、両者が描く「未来」の違いを探ります。

 つくば万博(1985年)の概要と特徴

1985年3月17日から9月16日まで、茨城県つくば市で開催されたつくば万博は、「人間・居住・環境と科学技術」をテーマに、科学技術が日常生活にどう貢献するかを示す場でした。

会場はつくば科学都市の約100ヘクタールの敷地に広がり、48カ国と複数の国際機関が参加。

約2033万人が訪れ、当時の日本に大きなインパクトを与えました。

つくば万博の最大の魅力は、最先端技術の展示でした。

  • HSST(高速表面輸送システム):リニアモーターカーの試作機で、浮上走行の未来的な交通手段が注目を集めました。これは現在のリニア中央新幹線の技術の原型とも言えます。
  • ロボット技術:産業用ロボットやピアノを演奏するロボットなど、娯楽と実用性を兼ねた展示が人気でした。
  • 映像技術:大型スクリーンや立体映像が登場し、現在のIMAXやVR技術の先駆けとなりました。

パビリオンも多彩で、アメリカ館では人工知能(AI)や宇宙開発、ソ連館では科学技術の壮大さを展示。

日本企業のパビリオンでは、富士通やNECが未来の情報社会を予見する展示を行い、来場者に夢を与えました。

特に、つくば万博は「技術の見本市」としての性格が強く、子供から大人までが科学の進歩にワクワクした時代でした。

時代背景としては、1980年代の日本はバブル経済直前の好景気。技術大国としての自信が高まり、つくば万博はその象徴でした。

つくば市自体が研究学園都市として開発されており、万博開催を機にさらに注目を集め、現在の科学技術の拠点としての地位を固めました。

 大阪・関西万博(2025年)の概要と特徴

一方、2025年4月13日から10月13日まで、大阪市此花区の人工島・夢洲(ゆめしま)で開催される大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げます。

161カ国・地域と9つの国際機関が参加し、約2800万人の来場を見込んでいます。

テーマは「いのち」を軸に、「救う」「育む」「つなぐ」の3つのサブテーマで構成され、持続可能な開発目標(SDGs)や日本の「Society 5.0」戦略の実現を目指します。

大阪・関西万博の特徴は、単なる技術展示を超えた「共創」の場であることです。

  • シグネチャーパビリオン:日本が提案する8つのパビリオンで、AIやバイオテクノロジー、循環型経済など、未来社会の課題解決を体感できます。例えば、日本パビリオン「いのちの循環」では、バイオガスやCO2リサイクル技術を展示。
  • 国際パビリオン:イタリア館ではバチカン市国の展示が含まれ、信仰と科学の融合を表現。ドイツ館は「循環経済」をテーマに、持続可能性を強調します。
  • People’s Living Lab:来場者が展示を見るだけでなく、未来社会のアイデアを共同で創出する実験場。オンラインとリアルを融合した参加型プログラム「TEAM EXPO 2025」も展開。
  • インフラとデザイン:会場には「グランドリング」と呼ばれる木造の巨大な歩行者通路があり、環境への配慮と美しさを両立。夢洲の海と空を活かした開放的な設計も特徴です。

2025年の万博は、グローバルな課題(気候変動、経済格差、AI倫理など)に直面する現代社会を反映しています。

日本はコロナ禍後の国際交流の再構築や、2030年までのSDGs達成に向けたプラットフォームとして、この万博を位置づけています。

 両万博の比較:時代背景と目指したもの

時代背景

つくば万博が開催された1985年は、日本の経済が絶頂期に向かう時期でした。

技術革新への楽観主義が強く、「未来は明るい」という雰囲気が社会全体に広がっていました。

一方、2025年の大阪・関西万博は、気候変動やパンデミックの影響、AIやバイオテクノロジーの倫理的課題など、不確実性の高い時代に開催されます。

経済成長だけでなく、持続可能性や包摂性が重視される現代では、万博の役割も「展示」から「問題解決の場」へと変化しています。

テーマとビジョン

つくば万博のテーマ「人間・居住・環境と科学技術」は、技術が生活を豊かにするという前向きなメッセージでした。

展示は「見る」ことに重点が置かれ、来場者は未来の可能性に驚嘆しました。

対照的に、大阪・関西万博の「いのち輝く未来社会のデザイン」は、技術だけでなく、人のつながりや地球環境を重視。

来場者が「参加」し、未来を「共創」することを目指しており、単なる見世物ではなく、社会実験の場としての性格が強いです。

技術の焦点

つくば万博では、リニアモーターカーやロボット、映像技術など、具体的な「モノ」の技術が中心でした。

これらは当時の最先端でしたが、比較的単一の分野に焦点を当てていました。

一方、大阪・関西万博では、AI、バイオテクノロジー、循環型経済など、分野を横断する技術が展示されます。

例えば、医療分野では個別化医療(PHR:Personal Health Record)やフードテックが紹介され、技術が社会全体の課題解決にどう貢献するかを強調します。

国際性と参加

つくば万博は48カ国の参加で、冷戦時代の国際競争の色合いが濃く、技術力のアピールが目立ちました。

大阪・関西万博は161カ国・地域が参加し、グローバルな協力を重視。SDGsを共通の目標に掲げ、国際機関や市民団体の関与も多いです。

また、オンラインでの参加や事前の共創プログラムにより、国境を越えた対話が既に始まっています。

会場の意義

つくば万博の会場は、研究学園都市として計画されたつくば市の一部であり、万博後に科学技術の拠点として発展しました。

一方、大阪・関西万博の夢洲は、万博後に統合型リゾート(IR)や新たな都市開発の核となる予定です。

夢洲の人工島は、環境負荷の低減やインフラの再利用も考慮されており、万博自体の持続可能性も問われています。

 両万博の意義と現代への影響

つくば万博は、日本の技術力を世界に示し、若者たちに科学への興味を喚起しました。

多くの技術者がこの万博をきっかけにキャリアを築き、後のIT革命やロボット産業の発展に繋がったと言われます。

一方で、技術至上主義の楽観的なムードは、バブル崩壊後の社会変化でやや影を落としました。

大阪・関西万博は、技術だけでなく、人間中心の社会(Society 5.0)を目指し、持続可能な未来を模索します。

しかし、準備段階では建設費の増大(当初1250億円から最大2350億円)や公共の関心の低さが課題に。

2023年の調査では、来場意向が33.8%と低迷し、1970年の大阪万博(6400万人)やつくば万博の熱狂とは対照的です。

SNSでは「宿泊費の高騰で大阪に行きづらい」といった声も見られ、経済効果への期待と現実のギャップが議論されています。

 今、万博を考える

つくば万博は、科学技術の夢を見せ、未来への希望を植え付けました。

大阪・関西万博は、その夢を現実の課題解決にどう結びつけるかを問う場です。

40年の時を経て、技術は進化しましたが、社会の複雑さも増しています。

つくば万博が「未来を予見する」祭典だったとすれば、大阪・関西万博は「未来を共に創る」祭典と言えるでしょう。

あなたはどちらの万博に魅力を感じますか?

過去の夢を振り返るもよし、未来をデザインする場に参加するもよし。

万博は、私たちがどこに向かうのかを考えるきっかけなのかもしれません。

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